かつて虎は、龍と並んで強さの象徴とされてきました。戦国時代以降、武家中心の社会になると、強さを誇示するものとして掛軸や屏風、障壁などに描かれるようになります。しかし、ここで1つ問題が……。日本には虎がいなかったのです。
龍も虎も中国伝来ですが、龍は古より神獣として知られ、神社仏閣の欄間彫刻や障壁画などに垣間見ることができました。ところが虎は、実在する動物でありながら誰も見たことがありません。豊臣秀吉など時の権力者が、実物を取り寄せたといわれていますが、それを見られたのはごく限られた人のみ。そこで当時の絵師たちは、中国や朝鮮から伝わった文献や絵画を頼りに、苦肉の策として身近にいる似た動物--猫を参考にしながら虎を描いたのではないかともいわれています。
こうして描かれた虎は、猛々しさのなかに愛らしさを秘めた、まさに「ねこトラ」となったのです。おそらく当時の日本画にしか見られない独特の姿でしょう。
展示する虎図は、鳥取画壇の祖ともいわれる鳥取藩絵師・土方稲嶺、その高弟・黒田稲皐、奇才・片山楊谷などの鳥取ゆかりの絵師たちをはじめ、徳川幕府御用絵師・狩野探信、ユニークな画風の画僧・仙厓などの作品。寅年を迎えるにあたり本展では、これらの虎 or ねこトラの日本画をはじめ、虎、寅、トラ……、たまに猫でお送りします。